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商品の販促用にカラーカードと呼ばれる色見本帳を作成することがあります。

カラーカードは商品の発色性や素材感に適した色合いを提案するための重要な販促ツールです。

ここで提案したカラーがそのまま店頭に並ぶことも多く、当社の色のセンスが問われるため色見本はいつも慎重に作っています。

色の決め方には基本となる考え方がいくつかあり、たとえば柔らかなコットンであればその柔らかさが伝わりやすいようなやさしい色合いに、天然の光沢が映えるリネンには出来るだけ明るい色をつけてあげる、というように素材を生かした色をつけるのもひとつの方法です。

ただし、ファッショントレンドに乗った流行色や定番的に人気の色もあるため、素材の特性だけを考えていては駄目です。定番的に人気の色というとネイビー、メランジグレー、ベージュ、ホワイトあたりの色でベーシックカラーとかナチュラルカラーなどと呼ばれたりします。

当社では天然繊維を多く扱っているのでそれを扱う客先様も天然の風合を好まれるため、最初にお渡しするサンプルの色について「何かナチュラル系の色で出荷してください」と依頼されることもしばしばあります。
大抵はグレーやベージュ、ネイビーなどの定番カラーをお出ししますが、グレーやベージュであればどんな色でもナチュラルカラーかと言うとそうではありません。

今回はこのナチュラルという言葉について少しお話してみたいと思います。

ナチュラルというと自然・天然といったものをイメージするのかと思います。ではこの対義語もしくは反対の意味に当たる言葉というと何になるでしょうか。

人工的=Artificial、化学的=Chemical、もしくは不自然=Unnaturalというものもありかと思います。

色に関して自然界のものと人工的(Artificial)なものの最も顕著な違いは単一性にあると考えています。たとえば家電や自動車などの工業製品におけるブルーやグリーン、ピンクなどのカラーは基本的に単一色です。
もちろんグラデーションやパターン柄のものもありますが、それぞれの独立した色は単一色になっていることが多いように思います。

色が単一になることの理由は主にデザインがそれを要求している点にありますが、それ以外にも工業製品というものが一定の品質で大量に生産される必要があることに起因していると考えられます。

大量に同じものを生産するためには決められた配合に基づいて化学的(Chemical)に調合されたカラーで均一に塗装・着色する方が効率が良いからです。

例えば自動車の車体を白とグレーとベージュの3色のメランジカラーに塗装するとしたら同じような工程を3度繰り返す必要があるかもしれませんし、個体ごとの品質に差が出来てしまいカタログと実車に差が出来て返品のリスクを負い安くなるかもしれません。

決められた1色で全体を塗装することはメーカーにとって効率的で経済的なだけでなくリスク軽減にも貢献します。

それに対して自然界ではどうでしょうか。自然にあるものの中で単一色で構成されているものをすぐに思い起こすことは出来るでしょうか。

一見すると単一色に見えるようなものでも近づいてみると様々なカラーの複合色になっているかと思います。

森は濃淡のグリーンやブラウン、木はブラウンやベージュ、岩はグレーや白、空もブルーの濃淡から夕方にはオレンジとレッド。真っ赤に見えるバラの花も目を凝らしてみれば赤とピンクが細かく混ざり合って、場所によっては少し黄色がかっていたり紫がかっていたりします。

自然界のものはほとんどが何らかの複合色で成り立っています。

言い換えると、ある一定以上の面積が単一色で構成されているということは本来不自然(Unnatural)なことなのです。

私たちの日常生活は工業製品を使用することで成り立っており、単一色のものが身の回りにあること自体はすでに不自然なことと感じなくなっていると思います。

しかし、色の混ざりあったいわゆるメランジトーンやヘザートーンと呼ばれるものと単一色のものを同じ形状で2点比較した場合、メランジトーンのものの方により自然に近いニュアンスを感じると思います。
そして、その自然な色のニュアンスに対してどこか安心感や落ち着きを感じているのではないかと思います。

科学的に検証したわけではなく根拠が曖昧な点はご容赦願いたいのですが、木製品の家具の杢目に落ち着きを感じたりすること、天然石のタイルを玄関や室内に取り入れること、デニムの色落ちを好んだり、もしかしたら使い古して色あせた食器や家具などに愛着がわくのも、突き詰めていくとそのものがもつ色の多様性に起因しているのではないかと考えています。

そういった理由から、天然繊維を素材本来の風合を生かした糸にするような場合には出来るだけこのナチュラル感をうまく取り入れてカラーカードを作るように工夫しています。

グレーやベージュなどのベーシックカラーとされている色だけでなく、グリーンやピンクなどの色を作る場合にもそれを意識して色を配色するようにしています。

例えばミントグリーンの色を作る場合は薄く黄色味がかったペールグリーンに濃度の低いサックスを撚り合わせ、サーモンピンクを作る場合はチェリーピンクのような明るいピンクに同濃度の少しくすんだオレンジを撚り合わせるなどです。

出来上がった色は少し離れて見ると単一色に見えるように、そして近づいてよくよくみると複合色になっているようにと心がけて作っています。

この際あまりに色の差が大きい組み合わせになると、メランジのトーン差がきつくなりすぎて出来上がった色がカジュアルに見えてしまうケースがあるので、その差のつけ方がなかなか難しく経験の要るところだったりします。

手にとっていただいた方が無意識にその色に対してどこか安心感を覚えて、もしくは心地良さを感じてもらえるようにという思いでそうしています。

もちろん単一色のソリッドカラーが映える素材についてはこの限りではありません。あくまでも素材の個性を生かすための一方法として上記のような手法を用いる場合があるということです。

私にとってはナチュラルカラーとは多彩な複合色のことであって、ベーシックカラーだけでなくビビッドなピンクにも鮮やかなブルーにも今回お話したような方法でナチュラルテイストを足し算すれば、無意識に人の心をほっとさせるような自然な色を作ることが出来るのではないかと思っています。